特区第10街区

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『BLACK BLOOD BROTHERS』の魅力 -吸血鬼モノの隠れた名作-

最近のライトノベル(以後ラノベと表記する)を読んでいると、ふと思うときがないでしょうか。「最近のラノベは同じようなものばかりだ」と。実際本屋のラノベコーナーに行くと、やたら長くて目が大きいヒロインが表紙の本がずらりと並んでいます。詳しくない人からみると全部同じような風になるかもしれません。内容も、主人公は鈍感なヒロインでヒロインはツンデレだだのと似たようなものが多いです。最近は特にこの傾向が強まっているように見えます。

そんな本に飽きてきたあなたにお勧めするのがこれです。

BLACK BLOOD BROTHERS1?ブラック・ブラッド・ブラザーズ 兄弟上陸? (富士見ファンタジア文庫)

 あざの耕平著『BLACK BLOOD BROTHERS』(以後BBBと表記)。

あざのさんは1999年にデビューし、2000年から出し始めた初のシリーズ『Dクラッカーズ』で人気を博しました。『Dクラッカーズ』は、飲むと悪魔を使役できる薬「カプセル」と、それを飲んで戦っている少年とその幼馴染の物語です。そのダークな内容と熱くそしてスピード感のある展開で、熱狂的なファンがいる作品となりました。その後2004年に満を持して発表された作品が、今回紹介する『BLACK BLOOD BROTHERS』です。この作品はさらにヒットし、あざの耕平氏の代表作となりました。2006年にはアニメが放送されたほどです。では、これからその魅力を三つのテーマを通して伝えていこうと思います。なお、これは作品を読んだことがない人も対象に入れて書いているので、買おうか迷っている方はぜひこの解説を参考にしてみてください。

BBBは特区という横浜湾に浮かぶ人工島を舞台とした、吸血鬼と人間の織り成す物語が描かれています。そう聞くとありがちな世界観に聞こえるかもしれないが、そんなことはありません。

まず主人公が、十七歳で働いている少女、葛城ミミコです。ラノベだと九割がたは学園ものの要素が入ると思いますが、それはこの作品では排除されています。だからといってそのせいでつまらないということはありません。ミミコの職業は吸血鬼と人間の仲を取り持つ調停員(コンプロマイザー)です。特区は吸血鬼と人間が共存している世界で唯一の都市なのです。そう、この物語のテーマの一つは「異種族との共存」。私はこの「共存」という言葉を聞いて一気に物語に引き込まれました。異種族の「共存」。このテーマは色々な作品で度々取り上げられています。互いに警戒しながらも少しずつ近づいていく展開は王道ですが、やはり面白いです。しかしBBBでは他のものとは大きく異なったオリジナリティがあります。それは吸血鬼と共存するという面です。今まで吸血鬼と共存するというのはあまり聞いたことがないのではないでしょうか。普通の物語といえば吸血鬼は敵として出てきます。

さらに、物語では一般的な吸血鬼ついて独自のアレンジを加え、見事な世界を作り上げています。細かい違いはいくつもありますが、特に大きいのは「人が吸血鬼の血を飲まないと吸血鬼に転化しない」という点です。一般の吸血鬼だと人が吸血鬼に血を吸われると吸血鬼になってしまいます。しかしBBBだと吸血鬼が人の血を吸っても吸血鬼にはなりません。これにより吸血鬼と人間の共存の可能性が少し現実的になるのです。私はこの発想に驚き、とても面白い着眼点だと感じました。

また独自性としては「血統を重んじる」ということもあります。BBBでの吸血鬼は血族社会といってもいいほど血が重要視されています。生活しているのもたいていは同じ血族同士で、血統によって特殊能力も異なります。本作で主人公のミミコの次に重要な登場人物は、「賢者イブ」の血族に属している兄弟、望月ジローと望月コタロウです。ジローは110年以上生きている強力な青年の吸血鬼なのに対し、コタロウは十歳のまだまだ子供の吸血鬼です。かなり年齢の差はあるが、二人はれっきとした兄弟なんです。そしてこの「賢者イブ」の血統は、この二人しかいません。当然二人の間には強い絆があります。この物語の二つ目のテーマは、「兄弟愛」です。これは1巻を最後まで読んだ方なら分かると思いますが、二人で楽しく過ごせる時間は限られています。しかしコタロウはそのことを未だ知りません。これから特区では様々なことが起こっていき、物語は思いも寄らぬ流れとなっていきます。その中でもジローがコタロウを心から気にかけ、コタロウはジローを尊敬する、そんなまっすぐで純粋さは、読んでいて胸が暖かくなります。

これからの展開に先ほど少し触れたので、ストーリーの話題は休題してシリーズの大まかな流れを範囲で紹介します。もちろんネタバレにならない範囲で。知っている方は多いと思うが、BBBはすでに完結しています。出版されたのは本編が11冊、短編が6冊という長い物語になっている。まず本編ではこの後特区に住む人間と吸血鬼の宿敵である「九龍チャイルド」が出てきます。これについては後ほど詳しく述べます。その後一回番外編を含み、物語はさらに勢いを増し、進んでいきます。一巻で面白いと思った方は、まだまだ序の口だと思って、これからの展開に期待していいと思います。それほどだと思わなかった方も、ぜひ続きも読んでいってほしいです。ぜひともこの兄弟と一人の調停員の物語を最後まで見届けてください。

そして本編に色を添えるのが短編です。富士見ファンタジア文庫では「ドラゴンマガジン」という雑誌を出しており、多くの作家はそこに執筆中のシリーズの短編を載せます。BBBはそれをうまく利用しています。短編の内容は主に特区でのミミコとジロー、そしてコタロウの日常生活が面白おかしく描かれています。本編のシリアスさとは対照的で、思わず笑ってしまうようなところがたくさんあります。BBBは1巻の結末から分かるとおり、この三人の生活は決して長くは続きません。その短い間を精一杯楽しむ姿は、まさに本編を際立たせるのに一役買っていると言えます。また短編集には、その他にもジローの過去の話も載っていいます。それによく出てくるのが、今の九龍チャイルドの中の数人なのです。

ではあらすじ紹介の最後に、三つ目のテーマを紹介します。それは「生きること」です。まず先ほどから出てきている「九龍チャイルド」について簡単に触れます。九龍チャイルドとは、BBBでの普通の吸血鬼とは違い「血を吸うと吸われた者を吸血鬼(それも九龍チャイルド)にしてしまう」という能力を持つ吸血鬼です。彼らを特区に入れるとどうなるでしょうか。おそらく九龍チャイルドがどんどん増えていき、大混乱に陥ってしまいます。特区の中枢は人々の生活を守るため九龍チャイルドを撲滅しようとします。それに対する九龍チャイルドだが、彼らはただの悪役ではなく、特区と同じ吸血鬼として描かれているのが、本作の特徴といえます。その過程を見ていると、彼らはただ生きようと必死にもがいているだけであることが分かります。その姿がまた格好いいのです。また彼らの過去については、先ほど述べたとおり短編集にも載っていて、彼らの九龍チャイルドになる前の姿が描かれています。これは1巻ではまだまだ分からないと思いますが、読み進めるほど九龍チャイルドは存在感を放ってくるので、彼らの生き方に注目していってほしいです。

このようにBBBは、ラノベの定番からは程遠いが面白く、そしてラノベの面白さもある壮大な物語です。しかしラノベを知っている人でも、BBBは知らない人は多いです。これは恐らく独特の挿絵とラノベらしからぬストーリーが原因で敬遠している人が多いからではないでしょうか。私はそのことがもったいないことだと思っています。この本はラノベに飽きた人はもちろんですが、一般小説が好きな人にもぜひ読んでほしいです。普通の小説に劣らない、手に汗握る展開を楽しむことができるのではないでしょうか。

 

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昔のPCをあさっていたら、BBBの作品を熱く語っている文が出てきて興味深かったので載せてみました。

ちなみにあざの耕平さんは最近だとアニメ化した『東京レイヴンズ』を書いているので、そちらもオススメです!

 ↑BBBは本編11巻、短編6巻と長いので、 

 ↑まずはアニメを見て面白かったら原作を読んでみるのもありかもです。全12話で原作3巻の内容までとなっています。