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アニメ化すればガルパンと肩を並べていたラノベを知っているか

ここ数年で大きな話題になったアニメの一つに「ガールズ&パンツァー」があります。戦争に用いられる戦車と少女の組み合わせから生じるアンバランスを、「戦車道」という競技に落とし込むことでエンターテインメントに昇華させることに成功した稀有な作品となっています。TV放送された当時、筆者はあらすじを読んだ時点で設定に無理を感じたため視聴せず、後になってその判断を後悔することになりました。
しかし、ガルパン放送よりも前に「戦車×少女」を先取りしていたライトノベル作品があるのをご存じでしょうか。それがこれ、

ニーナとうさぎと魔法の戦車 (集英社スーパーダッシュ文庫)

ニーナとうさぎと魔法の戦車』です。ガルパン放送の2年前である2010年に1巻が発売され、出版社の看板作品の一つにまで登り詰めたもののアニメ化には至らなかった作品です。今回は前半で本作品のあらすじとその魅力を紹介し、後半でアニメ化まで到達できなかった理由を考えようと思います。

概要

本作品の作者は兎月竜之介氏で、第9回スーパーダッシュ小説新人賞の大賞受賞作です。絵は『ソードアート・オンライン』の挿絵と同一人物であるBUNBUN氏が描いています。2010年9月に1巻が発売され、2013年6月に全8巻で完結を迎えました。

※『ソードアート・オンライン』ではabec名義となっているがBUNBUN氏と同一人物。

ストーリー

新型の魔力爆弾によって戦争が終結したかに思えたが、爆弾の影響で戦車が暴走し人間を襲い始め、人々は戦車と戦う日々を強いられていた。主人公ニーナは人身売買に売り出されたが隙を見て逃げ出し、その後魔女の才を見出され戦車団に拾われる。団員として過酷な戦いに駆り出される日々を送るが、あるきっかけを契機に逃げ出すこととなる。行く当てもなく盗みを繰り返し放浪していたニーナはある日、結婚式場で食べ物をくすねているところを見つかってしまう。それが私立戦車隊ラビッツとの出会いだった。はじめは一員として戦うことを拒否していたニーナだったが、ラビッツのメンバーとの交流を通し戦争を終わらせるために戦う決意を固めるのだった。

作品の魅力

この作品の魅力は主に二つあります。
一つが王道ストーリーです。この作品ではニーナをはじめとしたラビッツのメンバーが様々な困難に直面しますが、それに対し友情と信念で乗り越えていくという展開が多く、少年マンガのような良さがあります。しかし王道でありながら、王道を逆手に取るような意外な展開も用意してあるのがまた憎いです。一生懸命で好感を持てる登場人物が実は黒幕だったという展開もあり、筆者はそのショックを数日間引きずったこともありました。
作品全体で一貫しているのが、平和に対する思いです。復讐のためではなく幸せのために戦う。悪意で攻めてくるなら善意で反撃する。戦車隊ラビッツは通称首なしラビッツと呼ばれていますが、それは奪った首が一つもないという意味です。様々な事件があっても信念を貫き通し乗り越えていくさまは、読んでいて爽快な気分になります。ここまででわかる通り、ガルパンと類似点が多い本作で一番異なっているのが、試合でなく「戦争」をしているということです。戦争なので登場人物でも弾に当たれば死にます。戦いを繰り広げるライトノベルの中には誰も死なないような作品もあるが、本作品はそうではありません。
その影響もあり全体的にシリアスな展開が多いのですが、それを見事に中和しているのが登場人物の魅力、そして百合です。本作品では、魔力は若い女性が一般的に強いとされています。そのため戦車隊は基本的に少女のみの構成となっており、ラビッツももちろん例外ではありません。
ラビッツのメンバーは皆個性的で可愛いだけでなく、生き生きと描かれています。戦いでは凛としていても、普段はグータラだったり仲良く出かけたり時には喧嘩をしたり。文章だけでも破壊力があるが、BUNBUNさんの挿絵が付くとたまりません。ぜひとも動くところが見たいと思ってしまうのは自然なことだと思います。また、本作品の百合要素はガルパンと比較すると明らかに濃いです。メンバーの中でも大まかにカップルのような二人組があり、二人組それぞれのまっすぐな想いは読んでいて応援したくなります。ちなみに、作者の参加しているサークル「明日から休講です。」のホームページを見ると、デビュー前は百合小説の合同同人誌を出していたようで色々納得がいきました。

アニメ化に至らなかった流れ

ここからは本作品がどれぐらい評価されていたのか、そしてなぜアニメ化まで至らなかったのか考察していきます。
最初にラノベ作品がアニメ化決定するまでの一般的な流れを紹介します。まず必要なのは売り上げです。売り上げがあれば人気もあるということでメディアミックスが始まる作品が多く、マンガ化やドラマCD化などが行われます。うまくいけばメディアミックスによって裾野が広がり、注目する人も増えていきます。そしてメディアミックスの一つとしてアニメ化に至るのです。
では本作品の場合はどうだったか、順番に見ていきます。まず売り上げですが、出版社が公表しておらず不明であるため、ここでは売り上げの目安として人気を追っていきます。ライトノベル業界全体では、多くの作品が数冊で打ち切りになるという現実があります。その法則に照らし合わせると、合計で8冊もシリーズを続け完結まで辿り着いている本作品は一定以上の人気がある証拠だといえるでしょう。ではアニメ化しているような人気作品と比較してみるとどうでしょうか。人気の指標として『このライトノベルがすごい!』(以下このラノ)に掲載される人気ランキングを見てみると、本作品は実は一回もランクインしていませんでした。つまり、一定の人気はあったが爆発的なほどではなかったということが言えそうです。
しかし、そこまで人気でない作品がアニメ化することもあります。例えば、同じレーベルから発売されている『ドラゴンクライシス!』は、『このラノ』のランキングに入ってなかったにも関わらずアニメ化が決定し、2011年に放送されています。たとえ絶対的な人気がなくても、アニメ放送によって人気が上昇すれば売り上げも上がるという考えでアニメ化される場合があるということです。レーベルの看板になっていた本作品なら、この考え方を適用してアニメ化してもおかしくないと言えるのではないでしょうか。
次にメディアミックスを見てみます。実は、本作品ではマンガとドラマCDが出ています。マンガ化する作品は多いかもしれませんが、ドラマCD化については実際に声優さんの声が付くこともありハードルが高く、アニメ化に向けて大きな一歩を踏み出しているといえます。つまり、本作品では途中までは順調にアニメ化への道を歩むことができていたということです。
ここまで見ていくと、人気はほどほどであるものの、出版社の後押しもありアニメ化に向けて順調に進んでいたように思えます。ではアニメ化に至らなかったのはなぜなのでしょうか。キーとなるのがアニメ制作側です。スーパーダッシュ文庫の場合、アニメ化の話はプロデュースするアニメ制作会社が企画書を提出することから始まるそうです(ソースはこちら)。つまり、アニメ制作会社が何かの事情でこの作品を避けたのではないでしょうか。
制作側が着目してくれなかった理由として、筆者はガルパンが原因にあると考えています。『ニーナとうさぎと魔法の戦車』のメディアミックスが始まったのは2011年末のことです。当時の出版社側はおそらくアニメ化まで進めていきたいと意気込んでいたのではないでしょうか。ここで制作スケジュールを考えてみます。アニメ化決定から放送までどんなに短くても1年以上かかると考えると、放送は早くても2013年頃になる。そんな中2012年に出てきたのがガルパンです。ガルパンは作品のコンセプトが大きく被っていたため、アニメ制作会社が本作品を推すことに躊躇いを覚えてしまった可能性は十分に考えられます。それだけに、もう少しこの作品が早く世に出ていれば、または制作側が早くアニメ化を決めていればと悔やまれてなりません。今からでもいいからアニメ化してくれたら嬉しいのですが。

まとめ

ここまで『ニーナとうさぎと魔法の戦車』を紹介してきました。「テンプレラノベ」という言葉が生まれネタにされる中で、この作品は世界観とキャラクターともに個性が光っており、さらにラノベとしては貴重な男子が目立たず百合色が強いシリーズとなっています。アニメ化は難しいと思いますが、この記事をきっかけに少しでも興味が出てきたならば、ぜひ1巻を読んでみてください。

カクヨム」で外伝が読める!

ここまで紹介してきましたが、実はこのシリーズの外伝が最近公開されました! 題名は「ミキとうさぎと機械の迷宮」。この作品は別の戦車団の話ですが、魅力的な女の子やキャラクター同士の絆など、ほぼ同じ雰囲気の作品となっています。まずはこっちを読んでから『ニーナとうさぎと魔法の戦車』に触れてみるのもありだと思います。

 

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