特区第10街区

サブカルやガジェットをメインにつらつら書いていくブログ。

後世に残りそうにない平成の出来事「日向電工ごめんなさいシリーズ」をここに記す

平成が終わる。平成に入りインターネットが普及し、新しい文化が次々と花開いた。その象徴の一つが「ボーカロイド」だ。初音ミクの人気により、ニコニコ動画では大変な賑わいを呈した。ニコニコ大百科を見れば、その輝かしい歴史を見ることができる。

一方当時の熱量は大百科を読んでも伝わらない。それではもったいない。平成が終わるにあたり、ボカロ曲を追っていて個人的に一番熱いと感じた「日向電工ごめんなさい」を振り返りたい。

ユーザー主導で盛り上がっていたボカロシーン

最初に、ニコニコ動画の雰囲気を伝えるためにちょっと説明を入れる。ニコニコ動画の魅力は、その自由な雰囲気にある。ある人が曲を上げると別の人がPVを描いたり歌って関連動画が生まれる。さらには、一人の動画をきっかけに皆が派生動画を次々に作り大きく賑わうこともあった。その中でも特に盛り上がったのをいくつか紹介する。

わりばしおんな。(ラヴリーP / 2008年)

本人が初めて書いた独特の絵。笑っていいのか笑えないのかわからなくなるようなシュールな歌詞。なぜか頭に残る電子音。その中毒性に感染する人が続出し、アレンジ動画が次々と作られた。現在140曲以上あるらしい。

般若心経ポップ(おにゅうP / 2010年)

誰もが聞いたことのある般若心経をなぜかポップにした動画。般若心経の知名度とゆるいPVとの相乗効果もあり、ロックやハードコアからR&Bまでアレンジ曲が大量に生まれた。現在そのうちの10曲以上が殿堂入り(10万再生)を達成している。すごい。

P 名 言 っ て み ろ !(maretu / 2011年)

ポケモン言えるかな」と同じ発想でP名を怒涛のスピードで歌い上げていく曲。なぜかP名が光っていたりやたら強調して歌われているP名がいたりと突っ込みどころのあるつくりになっており、突込みやP名が呼ばれなかった悲しみなど多くのボカロPが競い合うようにアンサーソングを作り盛り上がった

 

日向電工ごめんなさいシリーズの話

そんなユーザー主導のムーブメントの集大成(と勝手に思っている)が「日向電工ごめんなさいシリーズ」だ。

日向電工さんの紹介

まずは日向電工さんについて簡単に紹介する。日向電工さんは2012年に「アンダワ」でデビューしたボカロPだ。代表曲「ブリキノダンス」はカラオケでも上位に入っているので知っている人は多いかもしれない。

日向電工さんの曲は独特の特徴があり、動画を見れば日向電工さんとすぐにわかる仕掛けがなされている。特徴を全部話したいが長くなってしまうので、ごめんなさいシリーズを紹介するうえで重要な点を簡単に3つにまとめる。

1. wowakaさんへのリスペクト

wowakaさんは黎明期のボカロ界を代表するボカロPで、先日亡くなられたことで記憶にも新しい。早いテンポと高音域などその後のボカロに多大な影響を与えた。wowakaさんが投稿した動画には独自の特徴があった。一つは「動画がモノクロの一枚絵」であること。二つ目は「投稿する曲がしりとりになっている」こと(最初の7曲のみ)。日向電工さんはその点をリスペクトしており、動画はモノクロでしりとり順となっている。

2. 独特の曲調 / 驚異的な語彙力と世界観

wowakaさんを意識して投稿された曲だが、劣化ではなく日向電工さんの個性がいかんなく発揮された曲となっている。一つが独特の曲調だ。音楽は詳しくないのでわからないことが多いが、クラップを多用したり電子音が多く使われたりと、どれもwowakaさんとは違う音の使い方がなされた曲となっている。

二つ目は語彙力と世界観だ。デビュー曲「アンダワ」の歌詞を載せる。

虚栄背徳疑心の地下を すべからく抜け出した僕らは 
手を繋いで笑ってサヨナラ ワンダー!地底からおいでませ
(アンダワ) 

日向電工さんの曲の特徴の中に、漢字熟語が多用される点がある。タグにも「驚異の語彙力」がついている曲が多い。また、アンダワの最後に「地底」という言葉が出ている。日向電工さんの曲はどれも「地底人」を歌っているというのも特徴となっている。

3. 動画説明文

日向電工です。」と簡潔に書かれている。

時は2013年

前置きが長くなってしまったが、ここからごめんなさいの話を始める。

2012年にデビューした日向電工さん。精力的に曲を作り続け、2013年9月に新曲「スパークガールシンドローム」を発表した。これで日向電工さんの投稿は7曲となった。

順番に曲名を並べるとこうなる。

①アンダ → ②ープアンドワー → ③ラスチックゲー → ④ベタトラベ → ⑤スバンドライ → ⑥リキノダン → ⑦パークガールシンドロー

新曲の出来に満足するファンたち。さて、当然次に期待するのは新曲だ。しかし新曲は3か月経っても出ず、ツイッターでの音沙汰はなし。そんなときに一つの「釣り動画」が生まれた。

すべてはここから始まった

2014年1月15日、日向工と名乗る人により「カシノエスケー」が投稿された。

日向雷工です。

その動画は 「しりとり」「モノクロの一枚絵」「動画説明文」と日向電工さんの特徴を忠実に模倣していた。しかし感心すべき点はそこではない。曲のクオリティが釣りレベルでなく高かったのだ。電子音の使いかた、漢字熟語がまぶされた歌詞、そして日向電工さんの曲の延長線上にある世界観。それでいてどこか作り手の個性が感じられる曲。

リスペクトに溢れた釣りなら荒れるはずもない。そう、そのときはただの釣りで終わるはずだった。

――続きの曲が出るまでは。

伝説の始まり

2014年4月1日、「ロジェクトインサイダ」が投稿された。

日陰電工です。
この曲は『日向電工さんごめんなさいコンピ』に収録されます。※嘘です

驚くことに、この曲も釣りの域を超えたクオリティを持っていた。そしてこの曲の投稿文「日向電工さんごめんなさいコンピ」で決定的な流れができた。嘘から出た実とばかりに皆が曲を上げ始めたのだった。

盛り上がりは最高潮に

プロジェクトインサイダアの発表直後。続々と曲が増え始めた。

ルカナクルウ(日進電工)

タボログラウン(日向震工)

グラ(日向電ヱ)

ロッキーラッキーゲー日回電工

※現在は削除されている。

グロッキーラッキーゲージの投稿は4月12日。恐るべきスピードで良曲が続々と投稿された。その事実に「日向電工さんごめんなさいシリーズ」は徐々に話題に上るようになっていった。

王の帰還

さて、日向電工さんが注目されたのには、実はもう一つ理由があった。それが、日向電工さんの新曲予告だ。

 日向電工さんの新曲を待っている最中に始まったごめんなさいコンピ。結果的に最も効果的なタイミングだったのではないだろうか。

 

さて、新曲予告が3月22日。ごめんなさいシリーズの新曲は4月12日。次に期待するのは何だろうか。もちろん日向電工さんの新曲だ!

繋がったしりとり

そして盛り上がりは最高潮に達する。

4月22日。「カンノエンブレ」投稿。

「ムカシノエスケープ」から始まったごめんなさいシリーズは、この曲によって「ム」に戻った。その意味は自明。

ほらクラップ鳴らして頂戴 もうすぐだ新たな現象
真の王よ革命を起こせ!
(ジカンノエンブレム)

 今までのごめんなさいシリーズはどれも良曲揃いと先ほど書いた。しかし、この曲は正直さらに頭一つ抜けていると思う。なにより日向電工さんへの経緯と新曲を待ちわびるその思いを作品に昇華して見せている様が見事だ。

こうして、あとは日向電工さんの新曲が待ち望まれるのみとなった。

現れなかった真の王

しかし、日向電工さんは現れなかった。なぜかはわからない。

「日向電工さんごめんなさいシリーズ」はその後も続いた。曲名はどれも「ム」から始まり「ム」で終わる。いつ日向電工さんが曲を上げてもいいようにというメッセージが感じられる。

ごめんなさいシリーズの新規投稿曲は頻度が下がり、このムーブメントは徐々に忘れられていった。

あれから2年経った

2016年。ごめんなさいシリーズは細々と続き、3月には「ム」が投稿された。

恋を慕うこそ信者の生
一日が千秋なのさ
(ム)

 そう、まだ待っている人はいた。

この声が聞こえていますか?
僕たちはただ待っている!
(ム)

そして運命は動き出す。

 2年ぶりに日向電工さんがツイートした。

王の復活

怒涛の告知が始まった。

2016年11月29日に公式webが作られた。

 12月2日、なんとアルバムの発売が発表された。

翌日12月3日には待望の……!

新曲「ーンウォークフィーバー」が投稿された! 誰もが待ち望んだ王の帰還。新曲は再生数が伸びコメントはお祭り状態となった。

祭りの終わり

2017年2月17日、新曲「ケモノダンスフロ」が投稿された。

どこかもの悲しさを醸し出すメロディ、終わりを感じさせる歌詞。そしてしりとりの次に当たる「ア」は1曲目の「アンダワ」と被っている。まさに集大成にふさわしい曲となった。

そして2月22日、アルバムが発売。

 最後の曲は「バケモノダンスフロア」。

これ以降日向電工さんは姿を現していない。

最後に

平成の出来事で残したいものって何だろうと考えて真っ先に浮かんだのがこれだった。復活だけでなくアルバムまで買うことができて満足はしているが、それでもいつか新曲を聴きたいと期待している自分がいる。ジベタ教信者は今日もアルバムを聴いて待ってます。