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プライム会員なら無料の電子書籍『山彦』が面白い!

山彦 (新潟文楽工房)

次に読む本が見つからず、ふと「プライムリーディング」の存在を思い出した。プライム会員なら無料で電子書籍を読むことができるサービスで、種類は少ない。そこでなんとなく目に留まったのがこの電子書籍『山彦』だ。地味だがそれなりにボリュームはあり、レビューは少ないが評判はいい。結果的にこれが大正解だった。

 

世の中の本には、読んでもらうために世界観に様々な設定を盛り込む。その設定は一部の人にしか響かないものもあれば万人受けするものまで千差万別。その中で最も人気のある設定の一つは、「一般の人間が気づかない裏世界」ではないだろうか。例えばおなじみ『ハリー・ポッターと賢者の石』では、人が生活を営んでいる裏側に大きな魔法の世界が広がっていた。

ここで『山彦』の話に入る。この本では現代の田舎(新潟)を舞台としている。読者の認識と異なるのは、家に定住せず山を住処にしている「山彦」がいる点だ。イメージする原始人のような生活ではなく、お祭りのときには参加したり、民芸品を作って服や道具を買ったりと、一般社会にある程度溶け込んでいるところが面白い。この物語の面白差の一つはその山彦の在り方にある。なぜ現代まで山彦が残ることができたか。その理由が緻密に現実的に描かれており、その巧みな在りかたが読んでいてとても興味深かった。

詳しく書くとネタバレになってしまうので避けるが、物語の核は新聞社の須見、山彦の少女フミ、市議会議員の高橋が中心に進んでいく。最初は別々に展開していた彼らの物語がクロスし、それぞれの生き方に影響を与えていく。彼らの必死に生きようとする姿が等身大に描かれ、気づいたら物語にどっぷりつかって追体験するような気分で読むようになっていた。

また、この作品は欲張りといえるぐらいに様々なジャンルの要素が詰まっている。ミステリー、ファンタジー、ホラーなど作者の好きなものをすべて入れたことが伝わってくる。それでいて不思議な調和が取れていると感じるのはなぜだろう。

 

 

ここまで思ったことをつらつら書いてみたがほんの少しでも面白さが伝わっただろうか。一般書籍で出ることがあればヒットしてもおかしくないと思うぐらい気に入ったので、ちょっとでも気になった人はぜひ読んでみてほしい。

山彦 (新潟文楽工房)

山彦 (新潟文楽工房)